南蛮渡来
暗黒大陸じゃがたら 1982年 ランキングへ
文句なしにかっこいいアルバム。
バンドがかっこいい。音がかっこいい。存在感が、なによりも江戸アケミその人がとてつもなく
かっこいい。
出だしの台詞<あんた気に食わない>で僕らはガンとやられてしまう。彼の言葉はシンプルでスタイリッシュで汗臭く、一瞬の遅疑も見せず決して過たない。適切に放たれる適切な一語はほとんど物質的な質感で僕らの脳裏に刻み込まれ、音楽の裡に彼の汗まみれの肉体がひたすらに疾駆してゆくのをまざまざと見る。どの言葉も逡巡の跡がない、あたかもその発声と同時に生み出されたかのように新鮮で、なおかつ必然である。これは歌詞なんてものじゃない。彼の肉体(行為)そのものだ。
あまりにも多くのいわゆる表現者の忘れがちなことでもあるが、僕らが生むのは所詮僕ら自身の実でしかない。どうしてこうもかっこ悪い奴らがこのうえ自分を表現しようとまでしたがるのか。かっこいい奴はかっこいい、宿命的に、半ば強制的に、存在論的にかっこいいのだ。それは努力や試行錯誤の結果ではなく、むしろどうしようもない資質としての原因としてなのであり、それに続く努力や試行錯誤はむしろこの資質を解消するために働くからこそかっこいいのだ。いつの時代も天才に何かしら悲劇的といわれる伝説がつき纏うのはおそらくそうした存在の宿命によるものだろう。だがそれは本当に僕らには無関係な天才だけのおとぎ話か。僕らもまた僕ら自身の真っ黒な虚無を引き摺って歩いているのではないのか。要するに
部外者の言うお悔やみなんぞ怠け者のたわ言だ。
このアルバムは全曲にわたり、おそらくは生涯にわたって己の存在の不毛さを片時も休めず燃焼させ続けねばならなかった男のあまりに真剣な息遣いに満ちている。僕には<クニナマシェ>の子供たちが歌うリフレインが耳について離れない。
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